誰でも、食べ過ぎたり、お腹を冷やしてしまったりして、下痢になったことはあるでしょう。そのように、原因がはっきりしている下痢なら、水分をしっかり補給して様子をみても良いのですが、下痢がなかなか治まらない、発熱や嘔吐も現れているなど、緊急に医療機関を受診することが必要な下痢や、なんらかの深刻な病気によって続く下痢などもあります。
本項では、下痢で困っているときにどう対処したら良いのか、また、どのような下痢の場合に受診するべきなのかなど説明します。
下痢の種類
下痢は、水のような、または泥のような便が出て、1日の通常の排便回数より増えてしまう状態です。下痢はその持続期間で急性下痢と慢性下痢にわけることができます。
急性下痢
およそ1~2週間以内に治る下痢を急性下痢と言います。急性下痢は多くの場合、ウィルスや細菌感染によっておこります。
ウィルス感染による下痢は、水のような便(水様便)が頻回出て、嘔吐などを伴うことが多く、状況によっては血便がでることもあります。ただし、ウィルス感染の場合、腹痛はあまり強くないことが特徴です。
一方、細菌感染の場合は一般的に症状が強めで、強い腹痛、発熱などとともに血便がでることがあります。
慢性下痢
慢性下痢の場合は、一般的にはなんらかの消化器の病気によることが多くなっています。下痢を起こす病気として考えられるのは、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、大腸がんなどで、原因になっている病気によって、腹痛、腹部膨満感、便秘と下痢の繰り返しなどの異なる症状がみられます。
急性下痢の原因
急性下痢で考えられる主な原因は、ウィルス、細菌、食べた食品や飲んだ飲料の影響、薬剤の副作用4つです。
ウィルスによる感染
腸で感染すると下痢の症状を起こすウィルスとしては、ノロウイルス、アデノウイルス、ロタウイルスなどが考えられます。ウィルスによって腸の粘膜に炎症がおこり、下痢や嘔吐といった症状をひき起こします。
これらのウィルスは経口感染や飛沫感染などが主な感染経路ですが、吐瀉物や下痢便などが付着したものにはウィルスが混ざっており、それが手についてドアノブなどで拡がったり、乾燥して粉末状になり空中浮遊したりと、家庭内で感染を拡げることがあります。
ノロウイルスはアルコールでは死滅しないため、次亜塩素酸ナトリウムを使用して消毒することが肝要です。
細菌による感染
下痢を引き越す細菌には様々なものがあります。また細菌によって潜伏期間なども異なり、1週間も潜伏後に発症した場合、感染源がわかりにくくなってしまうこともあります。
以下に下痢を症状とする主な細菌とその潜伏期間について表にまとめておきます。
細菌名 | 潜伏期間 |
---|---|
病原性大腸菌 | 12~36時間 |
カンピロバクター | 1~7日 |
サルモネラ | 12~24時間 |
病原毒素原性大腸菌 | 12~72時間 |
腸管出血性大腸菌 | 3~5日 |
腸炎ビブリオ | 8~12時間 |
多くの場合、食品からの経口感染となります。食品としては、十分に加熱されていない肉や魚介類、よく洗っていない野菜類などですが、それ以外にもペットなどから感染する場合もあり注意が必要です。
感染した細菌によって症状は異なる部分もありますが、細菌による感染症は、一般的にウィルス感染の場合より症状が強い傾向があり、下痢とともに激しい腹痛や発熱、粘液便や血便などが現れることもあります。また強い便意を感じてトイレにいっても少量しかでないこともあります。
飲食物
お酒の飲み過ぎによって下痢を起こしたことがある方は多いかもしれません。アルコールには下痢を起こしやすくする作用があります。またキシリトールやソルビトールなどの人工甘味料も大量に摂取すると下痢を起こすものがあります。さらにビタミンCも大量に摂取することでお腹を緩くします。
薬剤
薬剤の正常な作用、または副作用によって下痢になることがあります。下痢を起こしやすい主な薬の種類として
- 便をゆるくして出しやすくする緩下薬
- 消炎鎮痛薬や抗炎症薬
- 抗菌薬
- 胃酸分泌抑制薬
- 血圧降下薬
- 抗がん剤
- 麻黄や地黄などが含まれた漢方薬
などが挙げられます。
薬剤による下痢の場合は、服用を中止できるか、代替薬がないか処方した医師と相談してください。
原因となる薬の服用を中止すれば、数日で症状は治まってきます。
慢性下痢の原因
慢性下痢は、大腸など下部消化管の病気の症状として現れている可能性があります。
その主なものとしては、大腸がん、大腸ポリープ、過敏性症症候群、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)などが挙げられます。
大腸がん
大腸がんは早期のうちにはほとんど自覚症状がありません。だんだん大きくなってくると、便の通過障害が起こるなどで、便秘と下痢が交互に繰り返される、便に血が混じる、便が細くなる、残便感がある、体重減少などの症状が現れることがあります。ただし、これらの症状は他の腸の病気とも共通する部分があり、これらの症状があるからといって、必ずしも大腸がんの症状であるとは言えません。様々な可能性を考えて、これらの症状が現れた場合は、大腸カメラを受けることをお勧めします。
大腸ポリープ
大腸ポリープも大きくなってしまうと、大腸がんと同様に便の通過障害がおこり、下痢、便秘と下痢の繰り返しといった症状が現れることがあります。この場合は大腸カメラ検査によって、大腸粘膜をくまなく観察し、大腸がんの予防にもなるため、ポリープがあったら切除してしまうことをお勧めします。
過敏性腸症候群
腹痛とともに、下痢や便秘など、便通に関する症状があり、排便とともに症状は多少軽減するといった症状が続き、検査を受けても大腸などの消化管に炎症などの器質的な変化は無く、また内分泌などにも異常が無いというのが特徴の病気です。腸の蠕動運動などの運動機能や痛みや便意を感じる知覚機能になんらかの異常があって発症するのではないかと考えられており、機能性ディスペプシアと同様、機能性胃腸障害に分類されています。
便秘型、下痢型、混合型(便秘と下痢を交互に繰り返す)、分類不能型(膨満感やコントロールができないほどおならが出るなど)の4つの病型に分類されます。
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患は、広義には腸で炎症が起こることで様々な症状が現れる病気の総称で、クローン病と潰瘍性大腸炎があります。
どちらも、確かな原因は不明ですが自己免疫が関連していると考えられており、症状としては、腹痛、下痢、血便、体重減少などで、どちらも激しく症状が現れる活動期(再燃期)と症状が落ちつく寛解期を繰り返すのも特徴です。
完治のための治療法も見つかっておらず、国の難病に指定されていますが、これらの病気にむけて開発された薬によって、しっかりとコントロールすれば、発病前と変わらない日常生活を送ることもできます。
医療機関での治療について
下痢の治療といっても、急性のものか慢性のものかによって異なります。
急性のものの場合では、ウィルスによるものか細菌によるものかによっても異なります。
ウィルスによるものの場合、一般的には水分補給に気をつけながら、整腸剤による対症療法を行っていきます。下痢や吐瀉がひどく脱水の危険がある場合は、点滴による水分補給を行うこともあります。
一方、細菌性のものであれば、お腹の調子を整える薬に加え抗菌薬などを使用する場合もあります。
一方慢性の下痢の場合は、原因になる病気をつきとめることが第一で、そのために血液検査、腹部エコー検査、大腸カメラ検査などの各種検査を行います。
原因となる病気が判明したら、その病気に対する治療を行うことになります。
いずれの場合でも、下痢はなんらかの治療が必要な病気のサインである可能性がありますので、下痢に悩んだら必ず消化器内科などを受診するようにしてください。
すみやかに病院を受診すべき症状
以下のような症状に当てはまる場合、すみやかに病院を受診してください。
- 今まで経験したことのないような回数、量の下痢
- 下痢とともに粘液状のものが出て血が混じっている
- 下痢に伴って吐き気や嘔吐がある
- 排便した後も腹痛が治まらない
- だんだん症状がひどくなってくる
- 口が異常に渇く、排尿回数や量が極端に減ってきた
- 下痢に伴って熱がでてきた
- 同じものを食べた人が同時に同じ症状を起こしている
このような場合、下痢を症状とする病気の徴候であることや、食中毒などの可能性なども考えられますので、お早めに医療機関を受診するようにしてください。
自分でできる下痢への対処法
下痢は、出し切ろうとしても何度でも出ます。そのためトイレにこもりっきりになって無理に出し切ろうとすると、かえって冷えて体調がさらに悪くなるようなこともあります。また、薬剤によるものなどで原因が感染性のものではないことがはっきりしているケース以外では、下痢止めはかえって症状を長引かせてしまう可能性がありますので、安易に服用しないようにしてください。
お腹を冷やさないようにして、消化の良いものを食べるように心がけてください。また、下痢や嘔吐によって脱水を起こしやすくなっていますので、水分補給も積極的に行ってください。水分はあまり冷たいものを飲まないように、経口補水液なども室温にもどしてから飲むようにしましょう。温かいお茶やぬるま湯なども良いのですが、体液が薄まってしまわないよう、その場合はミネラル類を一緒に補給するのを忘れないようにしてください。
下痢のときに避けた方がいい食べ物
下痢の症状が続いている間は、
コーヒー、お酒、炭酸飲料、香辛料の強い食べ物など刺激の強いものは避けるようにしましょう。また、豆、カボチャ、根菜などの食物繊維が多い消化に時間がかかるものも避けた方がよいでしょう。
白粥、うどんなど、温かく消化の良いものを食べるようにしましょう。
下痢でお困りの方は当院まで
下痢のなかでも、急性のものは食中毒など感染性のものの可能性があること、慢性下痢の場合は、様々な消化器の病気の可能性があります。
急に下痢が起こったときにも慌てて間違った対処をしてしまわないように注意しましょう。
当院では、消化器病の専門医療機関として、下痢でお悩みの方にも消化器疾患の専門医の立場から、検査から治療をまで一貫して対応しております。お忙しい方でも診療、検査受けていただけるよう、土日も開院しておりますので、いつでも安心してご相談ください。
Web24時間予約、LINE予約にも対応しておりますのでお気軽にご相談ください。