肛門皮垂(こうもんひすい)という病気(症状)についてはあまり聞いたことがない方も多いと思います。
肛門皮垂は悪性の病気ではありませんが、肛門周辺の皮膚に症状が現れると、排便後ペーパーを使う際に邪魔になったり、かゆみがでたりと不快感を伴い、人知れず悩まれる方もいます。
本項では、肛門皮垂について、どんな病気なのか、気をつけることやその治療法などについて説明します。
肛門皮垂とは?
肛門皮垂とは、一言でいえば肛門周辺の皮膚がたるんででっぱっている状態で、スキンタグと呼ばれることもあります。なんらかの原因から肛門で炎症がおこり、それが治まって肛門自体の腫れが引いても皮膚がたるんだまま残ってしまったもので、病気というより状態といえるでしょう。
肛門皮垂自体は、命にかかわるような悪性のものではありません。しかし、比較的若い女性に現れやすい状態のため、見た目が気になってしまう方もいます。
放置して経過観察でもよいのですが、肛門周辺で何かがイボのように飛び出している場合、すべてが肛門皮垂というわけではなく、いぼ痔や肛門ポリープの場合もあるため、一度は肛門科に相談することをお勧めします。
肛門皮垂の原因
肛門皮垂の原因としては、肛門の炎症や、強いいきみなどに力が入ってしまったことによるものが多くなっています。
そのなかでも一般的な原因は以下の4つです。
嵌頓痔核(かんとんじかく)
内痔核は大きくなってくると、排便時や力を入れたときに脱肛します。その時なんらかの原因で脱肛した痔核が肛門の筋肉によって締め付けられて戻らなくなった状態が嵌頓痔核です。うっ血することによって激しい出血や腫れを生じ、治療してもとにもどっても肛門皮垂となることがあります。
血栓性外痔核
肛門は直腸粘膜と肛門上皮が直接つながってできている器官ですが、肛門上皮側に痔核ができたものを外痔核といいます。この外痔核周辺で血液の流れが悪くなると、血栓となり、皮膚から血豆のようにとびだしてきます。これが血栓性外痔核で、痛みや腫れを伴うことが多いものです。大きさはパチンコ玉程度で、その血豆が治ったあとでも皮膚がたるんで肛門皮垂となることがあります。
切れ痔
切れ痔は硬く太い便などが通過する際に、肛門の皮膚が裂けて切れ目ができてしまったような状態です。便秘などによって切れ痔が慢性化すると、その部分の傷が潰瘍以下したり瘢痕化したり、さらに肛門ポリープができたりすることがあります。
出産
出産時の強いいきみや外陰部の拡張などによって、肛門周辺も影響を受けて肛門皮垂となるケースが多くなっています。その場合、膣と肛門の間が好発部位となります。
肛門皮垂になりやすい方
仕事や日常生活のなかで、肛門皮垂を起こしやすくなる要因が存在することがあります。以下のようなことに心当たりがある人は、お気を付け下さい。
長時間同じ姿勢を続けることが多い方
仕事などで長時間同じ姿勢を続けていると、肛門皮垂ができやすくなることがあります。特に長時間座りっぱなしでのデスクワークや自動車、バイクなどの運転は、お尻の血流がうっ滞しやすくなり、肛門周辺にあってクッションの役割をしている静脈叢という部分にも負担がかかり、いぼ痔ができやすくなます。それによって肛門皮垂もできやすくなります。
また、同じ姿勢というわけではありませんが、力の入った同じ動作を繰り返すことの多いスポーツ選手も、力を出す際は肛門を締める動作が多いため、痔を起こしやすく、そのため肛門皮垂も起こしやすい傾向があります。
便秘を繰り返している方
慢性的に便秘症状がある場合、強くいきむ動作が多くなり、そのために肛門周辺の皮膚がたるんでしまうことがあります。また、便秘によって太く硬い便となり、その便が肛門を通過する際に切れ痔の原因ともなります。そのため便秘は肛門皮垂の原因となりやすいのです。
また、便秘ではなく下痢の場合も、痔の原因となりますので肛門皮垂ができやすいといえます。
出産後の方
出産時に、強くいきむことから、肛門周辺に力がかかり、肛門皮垂になってしまう方も多くなっています。また、内痔核ができている場合は、いきむことでに痔核が脱肛し、肛門皮垂の原因になることもあります。
妊娠・出産は大切なイベントですが、それによって痔や肛門皮垂を起こした場合、忘れずに痔や肛門皮垂のケアをおこないましょう。
肛門皮垂の症状
肛門皮垂の第一の症状は、肛門のあたりの皮膚がたるんでできもののようになることですが、それ以外にも症状が現れます。
無症状なことが多い
肛門皮垂ができても、小さなうちは特に炎症が起こるということはないため、これといった自覚症状はありません。少し大きくなってきたときに排便後にペーパーで拭く際に違和感がある、ひっかかりが出るといった程度です。
かゆみや炎症がでるケース
肛門皮垂が大きくなると、排便後にうまく拭き取ることが難しくなり、便が皮垂と肛門の間に残ったままになってしまうことがあります。その状態が続くと、周辺が不潔になりかゆみが出たり、炎症が起こったりするようになります。炎症がひどくなると、その部分が腫れて痛むようなこともありますので、清潔を心がけましょう。
シャワートイレなどでよく洗った後、ペーパーでよく水気をとって乾燥させたり、お風呂では石けんをつかって優しく洗い、石けんの刺激が残らないように、優しく洗い流してください。
肛門皮垂の検査・診断
肛門皮垂が疑われるといっても、特に難しい検査などはありません。問診で詳しくどんな違和感があるのか、腫れやできものの有無などについてお伺いします。その後、肛門皮垂なのかどうかを、医師が目視で確認し診断します。肛門皮垂は肛門科で扱うことが一般的です。
肛門皮垂の治療法
経過観察
肛門皮垂があっても、炎症が無く、引っ掻いて出血しやすいといった状態になっておらず、特に問題がないようであれば、処置はおこなわず、経過観察とします。
皮垂している部分の陰になるところが不潔になると、炎症を起こしかゆみがでてしまう場合もあります。日ごろのケアを丁寧におこなってください。
手術
肛門皮垂は、特に炎症や痛み、出血などがおこらない限り、害があるものではありません。しかし、自然に治癒することはありませんので、上記のような症状が頻繁に現れる、どうしても違和感が気になるといった場合には、手術で切り取ってしまう方法を検討します。
肛門皮垂の手術方法は、原因によって異なってきますので、それぞれの原因にあわせて適切な方法で切除します。
手術は、局所麻酔で行い、5分程度で終わってしまう簡単なものです。どうしても気になるような場合はいつでもご相談ください。
肛門皮垂を予防する方法
日ごろの注意によって肛門皮垂を予防することが可能です。
同じ姿勢で座り続けない
同じ姿勢で座っている時間が長くなると、肛門周辺、特に肛門のクッションの役割を果たしている静脈叢に負担がかかりいぼ痔の原因となってしまいます。またお尻周辺全体の血流も悪くなります。定期的に立ち上がって軽く運動をするなどの工夫をしましょう。
最近のスマートウォッチには、座り過ぎ注意の機能がついたものもありますので、そういったものを使ってみるのもよいでしょう。
便秘しないように気をつける
便秘で、無理矢理排便しようとする際の強いいきみの繰り返し、硬く太い便による肛門へのダメージなどによって、慢性便秘は痔の大きな原因の一つになり、それによって肛門皮垂おも起こりやすくなります。
適度な運動、規則正しい食事時間、水分を多めに摂る、食物繊維を多めに摂るなどで、便秘にならないように注意しましょう。
Q&A
肛門皮垂は自然に治るのでしょうか
肛門皮垂ができてしまうと、自然に治ることはありません。特にお困りのことがないようであれば、経過観察になりますが、弛んだ状態を解消したい場合は手術を検討します。
肛門皮垂を手術以外で治す方法はありますか
肛門皮垂は、外用薬や注射などの薬物療法では治りません。自己判断で市販薬を使用する前に、肛門科を受診しましょう。
日帰り手術は可能ですか
医療機関によっては、入院手術になることもあります。手術そのものは簡単ですが、術後の経過観察が必要なような状態の患者様の場合、入院手術を行うケースが多くなっています。
肛門皮垂の相談なら当院まで
肛門皮垂は、特に難しい症状などがでるような病気ではありませんが、ときには違和感を覚える場合や、不潔になると炎症を起こしてかゆみがでてしまうようなことがあること、自然に治ることはありません。
また、肛門皮垂になりやすい生活習慣があり、それらに注意して生活することである程度予防できます。
当院では、日本大腸肛門病学会の専門医が肛門科診療を行っております。連携病院にて、手術の対応もしております。院内の待合は女性の方でも来院しやすいように個室にしておりますので、お気軽にご相談ください。