多くの方は、胃がもたれたり、胸やけしたりといった症状に伴って、みぞおちのあたりがシクシクと痛むといった胃のつらい症状を感じたことがあると思います。特に、仕事や保護者としての学校行事などの強いプレッシャー、人間関係などで強いストレスがかかったなと感じるときに、そのような症状が現れる人も多いかと思います。
本項では、ストレスと胃の関係について、なぜストレスを受けると胃が痛むことがあるのか、その痛みの仕組みを説明します。
ストレスと自律神経の関係とは
人は生きていく中で、いつでも何かしらのストレスを感じています。仕事上のプレッシャー、職場、家庭、学校などの人間関係といった社会的環境のほか、疲労、パソコンやスマートフォンの操作など、それこそすべての行動がストレスの元といってよいでしょう。
常に抱えているストレスをそれなりに発散できているうちは良いのですが、自分で発散できないほどになってしまったときには、それによって身体的、精神的に多様な症状が現れてきます。そんな中でも胃痛はストレスによる身体的症状では一般的なものの一つです。
ストレスが強くなると、胃が痛む症状が現れる仕組みには、実は自律神経が大きく関係しています。
自律神経は、基本的に交感神経と副交感神経の2つで成り立っており、交換神経は支配下の消化管などの器官を活動的にし、副交感神経は逆にリラックスさせる働きがあります。この2つが、脳からの指令によってバランスをとりながら働いていていることで人の活動は正常に保たれています。
ストレスを感じると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることがあります。ストレスの影響で副交感神経を通じて胃酸の分泌が増える一方で、交感神経も刺激され、胃の血流が減少し、胃粘膜を保護する胃粘液の分泌が抑えられてしまいます。このため、ストレスによって胃粘膜の保護が弱まり、胃酸が過剰に分泌されて胃炎や胃潰瘍を引き起こし、胃痛が発生する可能性があります。
ストレスへの耐性には個人差がありますが、継続的なストレスの状態ではほとんどの人が胃痛を経験しやすいと言えます。仕事や家庭でストレスを感じている方は、胃痛のリスクが高まる可能性があります。
胃の痛みによる危険度
同じ胃の痛みといっても、すぐに医療機関の受診が必要な重篤なものから、様子をみても良いものまでがあります。
様子を見てもいい胃痛
- 仕事で強いプレッシャーを受けた後、みぞおちあたりに痛みがあったけれど、しばらくしたら治まった
- 食べ過ぎ、飲み過ぎの後で胃もたれや胸やけとともに軽い胃痛があった
このような症状であれば、一過性のものと考えられます。特に受診せずに様子をみても良いでしょう。
ただ、ストレスの強い環境が継続している場合や、何度もこういった症状が現れる場合には、ストレスなどから炎症や軽い潰瘍などを起こしている可能性もありますので、念のため消化器内科などを受診してください。
受診するべき胃痛
- 日常的にみぞおちのあたりが繰り返し痛む
- みぞおちのあたりの痛みが長時間続いている
- 空腹時や、食後しばらくしてなど、決まったタイミングで痛みが現れる
- 歩く、階段を上り下りするなどの動作が胃に響く
- 胃痛のある場所を指や手の平などで押すと痛みが増す
- 下痢、嘔吐、発熱などを伴う胃痛
このような症状がある場合は消化管の病気による痛みの可能性があります。
また胃痛の起こるみぞおちの部分は「心窩部(しんかぶ)」と呼ばれ、胃などの消化器だけではなく、心臓や血管なども位置していますので、それらの病気による痛みが胃痛として感じられている場合もあります。
それらの可能性を考えて、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしてください。
胃痛を引き起こす代表的な病気
急性胃炎
急激に胃の粘膜が炎症を起こしてしまった状態が急性胃炎です。原因としては、ストレス、細菌やウィルス感染、薬剤の副作用、お酒の飲み過ぎなどが考えられます。
症状としては、急な胃痛、吐き気、胸やけ、腹部膨満感などです。
治療は、どんな原因で胃炎になっているかと、炎症の程度によって異なりますが、基本は胃酸の分泌を抑えて胃をやすませる薬物療法を行うことが一般的です。また、ストレスが原因の場合は、しばらくストレス要因(仕事)などから離れて休むこと、細菌感染が疑われる場合は、抗菌薬を使用することもあります。
慢性胃炎
慢性胃炎は、胃酸の分泌が持続的に増加し、胃の粘膜が炎症を起こす疾患です。多くの場合、ピロリ菌感染が原因となっています。
慢性胃炎の症状は、胃痛、漠然とした胃部の不快感、空腹時の胸やけ、食後の吐き気・むかつきなどが主なものです。
治療としては、まずピロリ菌除菌が有効ですが、ストレスも大きな要因の一つですので、ストレスを発散することも大切です。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が逆流して、食道に炎症を引き起こす疾患です。通常、健康な人でも逆流が発生することがあります。成人のうち約10人に1人が逆流性食道炎に罹患していると言われ、日本人にとっては一般的な病気の一つです。
逆流が増える原因の一つとして、胃酸過多が考えられており、胃酸過多をおこす要因にはストレスが含まれています。
症状は、みぞおち付近の痛み、胸やけ、げっぷと呑酸、のどの違和感などです。
基本的には、胃酸の分泌を抑える薬による薬物治療を行いますが、逆流性食道炎はその他、食生活やストレスなどの精神的要因、肥満などが大きくかかわっていますので、生活習慣の改善も大切です。
ストレス性(神経性)胃炎
ストレス性(神経性)胃炎は、仕事や家事、人間関係のストレス、疲労、過労などが原因で発症する胃炎です。激しいストレスに晒されることで、自律神経の調和が乱れ、胃の症状だけでなく、精神的な不調も引き起こす病態を特徴としています。
この病気は、日本人のうち約5人に1人が経験すると言われ、現代社会におけるストレス疾患の一つとして知られています。主な症状は、胃痛、胃の不快感、食後のむかつき、胸やけ、腹部膨満感といった消化器症状の他、不眠やイライラといった精神症状も現れます。精神症状が悪化すると、うつ症状になってしまう方もいます。
胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍は、胃酸の分泌が過剰な状態で粘膜の組織がはがれ落ち、胃壁に穴ができる病態を指します。通常、胃は粘液によって保護されていますが、ストレスなどの要因によって胃粘液の分泌が低下し、胃液が組織を溶かすことで潰瘍が形成されることがあります。主な症状は、胃痛のほか、胸やけ、吐き気・嘔吐、胃もたれ、吐血や下血などが挙げられます。胃潰瘍や十二指腸潰瘍による下血は、タールのように黒くべとべとした状態になることから、黒色便やタール便などと表現されます。このような便がでたときは、まず胃・十二指腸の潰瘍が疑われます。
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアは、みぞおちの痛み、胸やけなどの症状があるのに、検査をしても上部消化管や内分泌機能などに炎症などの器質的疾患が見つからないことが特徴です。
症状は胃炎や胃・十二指腸潰瘍とも共通していますが、はっきりとした所見が見つけにくいため、医療機関で定期的に検査を受けることが重要です。
アニサキス症
アニサキス症は、魚介類に感染する寄生虫が原因で引き起こされる胃痛の症状です。日本では魚の生食文化が一般的であり、サバやイカなどに寄生しているアニサキスが摂取され、胃に寄生されると激しい痛みが生じる病気です。
刺身や寿司を摂取した後、数時間後に胃の辺りに激しい痛みが現れる場合、アニサキス症が最初に考えられます。適切に加熱調理または冷凍された魚介類は安全ですが、生の魚介類を摂取する際は、よく噛んで食べることで発症リスクを低減できます。
胃痙攣
胃が緊張しすぎて、痙攣を起こしている状態で、病気の名称というわけではありません。原因は強いストレスなどによる心因的なものから、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどによるものまで幅広く考えられます。
みぞおちあたりに発作的に強い痛みを生じるのが特徴的な症状で、発作は数分のものから、1~2時間続くものもあります。
胃痛に行う検査内容
胃カメラ検査
胃痛がストレスによるものであっても、胃に何らかの病変が生じている可能性は高いです。胃内視鏡検査を実施することで、食道から胃の内部まで詳細に確認し、異常の有無や発生している可能性のある病気について正確な情報を得ることができます。アニサキスに感染している場合は、除去も可能です。
腹部超音波(エコー)検査
患部に医療用のジェルを塗り、プローブとよばれる機器をあてて、超音波の透過と反射を利用して、膵臓や胆のう、肝臓といった消化器の状態を確認する検査です。お腹にいる胎児にも使用される無侵襲で身体にやさしい検査です。
血液検査
血液検査では、炎症、貧血、腫瘍マーカーなどを検査することができます。例えば、胃炎や胃・十二指腸潰瘍に伴う胃痛の場合、炎症や貧血が生じている可能性があるため、血液検査を通じて病気の診断を迅速に進めることができます。
胃痛でお困りなら当院まで
胃痛が起こる原因には様々なものが考えられますが、そのうちストレスなどの精神的原因と自律神経が大きく関連して、胃痛を起こしているケースもあります。
また、胃痛は消化器疾患に起因する場合もあるため、ストレスだから仕方ないなどと放置することなく、胃に痛みを感じた場合は、できるだけお早めに当院までご相談ください。
当院では、消化器病の専門医療機関として、専門医が豊富な知見と臨床医経験をもとに診療にあたっています。胃カメラ検査は、最新鋭の内視鏡システムを導入し、眠った状態で受けることもできます。
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